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++2005/08/31(水) そんな8月の終わり方ってあり!?
真夜中に部屋暗くして寝転んでDVDセットして寺山修司の映画をだまーって見ていたら、ぼう然と、本気でぼう然と夜があけて、8月が終わってしまったのであった。
わ、わ、わ、私の夏を、かえしてーーーーーっ!!!!
→というわけで9月の日誌へ
++2005/08/27(土) ドトールコーヒー下北沢駅前店の午後
娯楽の一日、昼から下北沢へ。
劇団健康「トーキョーあたり」を観る。のっけから腰がくだけるほど笑って、そのあと2時間ちょっと、なんやら意味はぜんぜんわからなかったけど、いちいちおもしろくてぎゃんぎゃん笑う。シモの単語が飛び交いドタバタとめまぐるしいものの、そのテンションとは間逆な上品さがそこはかとなく漂う、そんな不思議な舞台だった。でも、なんか、いちばんおもしろかったのは、主宰者のKERA氏がおもいっきり本番に遅刻してきて、実は出演すべき部分に出演していなかったという事実だった。カーテンコールで「次はちゃんと来ます」、そのどーでもよさが、ものすごいオチだった。
終演後、昼食をとり損ねたままだったためか、胸焼けしてきてこのままでは井の頭線のなかでゲロ吐くゼッタイ吐く恐らくは自分のトートバッグのなかに吐くと思ったので、駅前のドトールで水分などとりながら胃を落ちつけることにした。
適当な飲み物を買って着席すると、ほどなく隣に貧乏そうなアロハシャツを着たニセ氣志團みたいなお兄ちゃん達がやってきた。ニセ氣志團は、あの席の男がこっちを見ただの、先輩から集合の電話があっただの、ギャーギャーとドトールおよび私たち一般市民に対する迷惑行為を行い、周辺の空気をみるみる暗黒に染めてゆく。人々が少しづつ席を移動しはじめたころ、そのなかのひとり、これまたニセ綾小路翔みたいなのが、移動し遅れた私のほうへにじり寄って来てしまった。
「すんませーん、タバコ一本もらえねえっすかあ? あと、火」
な、な、な、なめくさっとんかワレ赤の他人から気安ぅもらいタバコしとんちゃうぞいっぺん返り討ちにおぅたらええねんこの貧乏アロハのアホボケカスぅ〜! とは思ったんだけど、にらまれて拉致られてまわされて踊りながらハメ撮りギグにでも出されたら、もう私、大変なので、「はぁい♪」めっちゃ笑顔でカチッと火をつけてあげた。
「あざーっす! マルメンっすね、いいタバコっす、姉さん!」
思いがけず、綾小路は笑顔で丁重に頭を下げた。
それから、なんだか私はそのニセ氣志團が非常に気になって、手元の文庫本に目を落としながらこっそり様子をうかがうことにした。
しばらくすると、こちらから見て、きゃつらの逆どなりの席に、ひどくくたびれたシャツにズボン、片足をずるずる引きずった大柄な男がやってきて、がん! およそ5000万円サイズはあろうかという大きなジュラルミンケースをテーブルの上に置いた。
思わず見上げると、浅黒い顔には幾重もの深いしわが刻まれ、眼光鋭く、あごからのどぼとけにかけて15センチ大の派手な裂傷痕のある、ここここれはゼッタイ人殺してるわー! ってな形相の中年男性だった。
ウワー、これはきた、やべえええええ!
読んでもいない本のページをぱらぱらとめくりながら、私はいまさら席を移動させるのもわざとらしいと思うと動くことができず、ただただニセ氣志團ときっと人殺しの対決に神経を集中させることになった。(期待どおり、)さきほどのニセ綾小路翔が「すんませーん、タバコ一本もらえねえっすか?」と人殺しに声をかけるまで、2分とかからなかった。
「このライター超かっこいいっすねえ。お借りしていいっすか?」
人殺しは、つっけんどんにライターを差しだしながら、手元でベルを鳴らす携帯電話を手にとった。ちらっと視線をやると、黒ずんだ二の腕に、これまた刃物で切りつけられたような光沢質の白い傷跡が、バッサリと刻まれているのが見えた。電話に向かって怒号を飛ばしている。
「おう? 適当にやっとくよ・・・・・・ああ? なかったら俺のやつでいい。とにかく、あるだけ全部、だまって持ってこいや!」
ひいいいい。もう、絶対、人殺しの予約電話だよおおお。銃刀および弾薬、あるだけ全部だなんて、どんな大物をやる気なんだろう。ていうか、氣志團、絶対早期に撤退したほうがいいって、あんたたちいいい!
ところが、私の心配をよそに、綾小路翔は馴れ馴れしくも、電話をおえた人殺しにずけずけと近寄って話かけはじめた。
「タバコ、赤のマルボロなんっすね! かっこいいっすねえ!」
「あん? 兄ちゃんら、いくつだ」
「え・・・・・・あ、あの、警察の人なんですか」
「いや、ちげえよ。タバコがかっこいいなんて言うからよ。ガキなんだろ」
「ハタチっす」
「うそつけ、見たところ、16、7だな。まあいいわ、すえよ」
「あざーっす!」
はあああっ、無事にタバコもらえたよおおお、よかったねえええ! もうそのくらいにしときな。ね、ね?
「あのっ、俺、実は16なんっす」
まだ話しかけるのかよおおおおお!
「そうか。やっぱりな」
「あのっ、でも、今の若者のあいだでは、赤のマルボロとセブンスターがかっこいいんすよ。それは本当なんす。だから、かっこいいっすねって言ったんす」
なに言い出すんだよお、綾小路!
とは思ったんだけど、私は彼の『今の若者のあいだでは』という一文に、妙な親近感を覚えた。ああ、この底知れぬ田舎くささ、純朴さ。がんばって『イマのワカモノ』をやっている、コンプレックスの塊具合・・・・・・これ、私、シンクロしちゃうのよねえ。
すると、人殺しもやはり何かを感じたらしく、体をくるりと綾小路のほうにむけ、黄色い歯を見せながら饒舌に話しはじめたのだった。
「おう、俺も田舎から出てきた人間だからよ、若い時分は兄ちゃんみたいにツッパッてたなあ。まあ、いまも変わらんまま、年だけ食っちまったけどな」
「え、こんな金髪とか、してたんすか」
「いやあ、金髪はねえけどよ。生意気にタバコふかして悪さしてたってことさあ・・・・・・ま、今でも悪さはしてるけどよ。兄ちゃんたちは、あれだな、まだまだかわいいもんだな。ワッハッハ」
すると、綾小路がタバコをぎゅっとテーブルにもみ消し、生意気そうな目つきでキッと人殺しをにらんだ。
「いやあ、俺ら、けっこうワルっすよ。『鬼露露』って知ってます? キロロ。暴走族の名前っすよ、それに入ってるんす。喧嘩も多いし、ヤクザともやりあったこともありますよ、なあ?」
いまにも飛び掛らんと殺気立つ氣志團は、思い思いの決めポーズで人殺しをにらみつけた。空気が凍った。ととと飛び交いますか、勃発ですか、ままままじですか。
と、人殺しは、くしゃっと顔をつぶすと、大仰に笑って、ぐっと眉間にシワを寄せた。眼力が満ちていた。
「元気のいい兄ちゃんだ。ヤクザとやりあったって? おめえらがにらまれた側だろ。そんな風貌だからよ、そら目もつけられるわな。どうせヤクザとは張り合えなかっただろ、どうだ。怖い目も見てきてんだろ」
「・・・・・・」
「いいか。おめえら自身がそういう格好してっから、ヤクザを怖いと感じるんだよ。目ぇつけられて当たり前の格好してるって自覚が、おめえらの中にあんだろ? それが怯えなんだよ」
すべてが、図星。
説得力に満ち、ドスのきいたしゃがれ声に、氣志團一行のとがった空気が急に静まり返った。しばしの沈黙のあと、綾小路は姿勢を正し、ひざをあわせて、ちいさく言った。
「ハイ・・・・・・ヤクザ、怖いっす」
「だろう? でもな、聞けよ? ヤクザはな、ヤクザ同士で喧嘩するもんだ。ふつうの奴には一切手は出さねえもんなんだよ。その世界には、その世界のやり方ってもんがある。おめえらみたいなのに喧嘩ふっかけて偉そうにしてるやつは、単に弱い者いじめしかできねえクソだ。どの道、上から締め付けられて負け犬になる奴だ。そんなもん、なんにも怖くねえよ」
土曜の昼下がり、ドトールコーヒー下北沢駅前店にて突如はじまったのは、ヤクザ講座。
講師は貫禄のある人殺し、ぶっきらぼうにも正しく諭す太い言葉に思わず聞き入ってしまったのは、私だけではないだろう。
「でもやっぱ、日本のヤクザさんじゃなくても、B系っていうか、黒人の怖い感じの方とか、いらっしゃるじゃないですか。なんつーか、言葉通じないから、やっぱ怖いっすよ」
「ハハハハ! やられたんか。アメリカ人? 怖くねえよ。どうせ、おめえら、アメリカ人はみんなピストル持ってるとか思ってんだろ。そういうの、先入観っていうんだよ。むこうの人間に聞いてみろ。日本人のほうが、むしろ能面みたいで何考えてるかわかんなくて怖いって言われてるよ」
おおお・・・・・・こんなところで世界がひとつひらけてしまったのだよ。
能面! そうだ、そうなんだよね。感情表現が薄いことも、感性のちがう人種から見れば、恐ろしいものに映るんだよ。勉強になるなあ。
「そうなんっすか・・・・・・。ああ、なんか、すげえ勉強になるっす」
綾小路も、ともに勉強していたのであった。
「アメリカ人は基本的にクリスチャンだしな。そこまでひでえことはしねえよ。それよりな、怖いのが、中国系だよ。もうムチャクチャな教育してっからよ、あっちのマフィアは見境なく簡単に人を殺すし、やることもひでえ。俺もいろいろ見てきたけどな・・・・・・」
それ以上語らないことが、返って想像力をかきたてた。
やがて人殺しは携帯の着信音を合図に立ち上がり、5000万円入りのジュラルミンケースをごつんと持ち上げると、氣志團全員を俯瞰して、言った。
「おめえらな、どうやら半分イッちゃってる奴もいるようだが、まあ、まだ、目が素直だ。あまい。妙な所うろついてっと、カモにされてろくな目にあわねえぞ。気いつけるんだな」
もはや、ドラマだった。その断言が、居住まいが、もう人殺し抜きでかっこよかった。もうちょっとだけ形相がやさしくて、糊のかかったきれいなシャツを着ていたら、ふつうに惚れてたかもしれない。
立ち去ろうとする人殺しにすがって、綾小路が言った。
「あ、あの、もしかして、お仕事は・・・・・・」
「俺か? 俺は詐欺師だよ。はん、自慢にもならねえ」
きゃああああああっ、かああああっこいいいいいいいい!!!
綾小路with氣志團そして私は、潤んだ瞳にハートマークをぷかぷか浮かせながら、詐欺師が足を引きずりながら自動ドアをくぐる、その背中をじっと見送ったのであった。
で、氣志團も「じゃ、集会いきますか」なんつってあっさりいなくなったので、私もドトールを出てちょっと下北を散策していたら、前方にさきほどの詐欺師の姿を発見した。
何気なく近寄っていくと、詐欺師は5000万をぶらさげたまま、着ているシャツ以上にくたびれたババアに道ばたで思いっきりどつかれていた。
「あるだけ全部持ってこいって、どこにあるんだか、わかんないから電話してんじゃないのよッ! とりあえず、これでいいんだねッ?」
ババアが詐欺師に叩きつけていたのは、赤いマルボロ、1カートンだった。
++2005/08/21(日) まーた、なくなった!
ライブドア「萌えろーん」・・・・・・。
特典として「萌えカード」とかいう萌えキャラのデザインカードが発行されるらしいけど、ターゲットは意外とオタク層ではなかったりして。
1.ホームページを持ってる人はこんな風に思わずリンクしたくなる→2.興味本位でいろんな人が見にくる→3.ふざけているのかと批判する人はたくさんいるが→4.ネットで即融資されたいと考える人はもっとたくさんいて→5.そういう人の根性が、だいたいふざけているのである→6.堀江社長、想定の範囲内。
あああ、どうでもいいけど、胃がいてえ・・・・・・。
一昨日、寝てたらいきなり気分悪くなってゲロること7回。体力すべて下水に流す。看護師の友人によると、どうも典型的な熱中症らしい。家ん中にいても、湿度が高かったり体のなかに熱がこもってイオンバランスが崩れたりするとそうなりますよ、と。
延髄を冷やすことと、梅干食って、調子が戻るまで執拗に水分をとらないことを教わって(教わるまでもなく、水飲んでも吐いてるのである)、なんとか死にはしなかったものの、あああ、胃がいてえ。しかも、せっかくBカップまで膨らんだ乳が、大切な乳が、まーた、なくなった! もう、勘弁してよー!
++2005/08/19(金) 難行苦行の一日
つ゛か゛れ゛た゛あああああああああ!
数年ぶりくらいに、父に会う。御年61歳。
「やあやあ久しぶり。いやあ、元気にしとるかね? 父はこの一週間、11・13・15・16・17とゴルフだったのだよ」
そして明日も4時起きでゴルフのため、関西からはるばる東京まで「こだま」に乗ってやってきたというのである。遊び放題! 銭まき放題! リッチなくせに、なぜ「こだま」!
で、なにがつかれたって、父と会うのはいいんだけど、会う場所が、パーティー会場だったのである。
うちの父は、俗にいう“偉い人”で、周りから『センセイ』と呼ばれて生活してる人種なんだけど、そのセンセイのお友達が集まるパーティーに、センセイのお嬢さんとして、ちょっとマシな服着て同伴し、ソツなく笑顔で過ごさねばならないという、もうメンドクサイことこの上ない二度と御免ですよホンマに、な、指令を仰せつかったわけで。
はああああああああッ・・・・・・。
大体だ。
ただでさえ私は、『パーティー』という単語そのものに疎外感を感じてしまうタイプの人間。よく知らない偉い人たちと時候の挨拶を交わすくらいなら、厨房に入って「ドジ、ノロマ!」と蔑まれながら雑巾で冷蔵庫の棚とか拭く仕事をやらせてもらったほうが、ずっと幸せな気持ちに浸れるのである。
「オ、もくれんさんだよね? 前回お会いしたのはー、ン〜、センセイ、6年前でしたかな? いやあ、すっかり大人の女性になられて!」
とかフレンドリーに話しかけられても、
「ええ、前回お会いした時は、まだ娘も学生でしたからな。いつのまにやら28歳になりましてなあ。ほら、もくれん、ホニャラカ先生だよ、憶えとらんか?」
とか父にフォローされても、んもーーーーーーーーーーーーー
S・T・R・E・S・S!
ストレス! ストレスすぎて笑顔もひきつるっちゅうもんである。
しかもだ!!!!
「ほほう、では、もくれんさんは、今はこちらにお住まいなんですね。お仕事は何をなさっていらっしゃるのかな?」
「娘は、会社経営をしておるんですよ。この未熟者が。ホッハッハッ」
まじですくわあああああああああああああああ!!!!!!!!
ああ、過ぎ去ったばかりの世紀末が、再び私を襲いはじめたよ・・・・・・。
そらあな、こんな、自分の体験がひっそり思くそパブリックになってる状態を、わざわざ父親に報告する娘なんかこの世にいるわけがないんですよ。けれど、父親の知る娘の情報が、そこまで意気揚々だった過去(※)にとどまっているなんて、ちゅーことは、そこまでさかのぼって会話しとかなきゃならないなんて、この挫折の掘り返され具合は、もう、災害! 戦後最大級! 私は立派な被災者ですよ、いますぐ自主的に公民館へ避難しなければなりませんよ。
(※泉美木蘭マメ知識:大学卒業後、上京して就職する→その会社は既にかたむいており、3ヶ月で辞める→このままだと東京にいる理由がなくなるので→イベント企画会社を起業→経営できるわけがなく→おまけに取引先にトンズラこかれて→借金700万を背負う→血で血を洗う2年の歳月をへてなんとか借金返済のメドが立ち→現在に至る)
「なんと。会社経営ですか! どのような業種を?」
「え、ええ、えーと、出版・・・・・・カンケイ、デス」
「ほお! お忙しい仕事でしょう」
「え、ええ、取材とか、やりますんで・・・・・・」
「ほおおお、それはたくましいですなあ。いやあ、立派なお嬢様で!」
「ホッハッハッ」
「はっはっは」
「お、おほほ・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
疲労困憊ッ! 難行苦行ッ! 半死半生ッ! 不可抗力ッ!
寝るよ、わたしは。このマグニチュードに耐えかねて。
++2005/08/17(水) おばあちゃんのなまはげ
そんなきょうこのごろ、ぜんぜん関係ない話なんだけど、そういえば昔、実家のおばあちゃんに「この子は、アマエタ根性ですねん! わてが、叩きなおしたりますわ!」と怒られたことを思い出す。あれは、たしか小学校3年生のとき、風邪をひいて学校を休んだ日だ。
朝、母親にいつもの小児科へ連れていかれて、数日分の風邪薬を処方され、帰宅した。特に高熱が出ていたわけでもなかったので、母親は仕事だかなんだかでそのまま出かけてしまい、家には、私とおばあちゃんが残された。
『昼になったら、おばあちゃんにご飯を作ってもらって、ちゃんとお薬飲みなさいね』
母親に説明されたのは、見るからに苦そうな白い粉薬が一服と、小さなカプセル剤。忙しそうに仕度している母親を見て、とりあえずハイと返事はしたものの、子供のころは誰だってそうであるように、私は薬が大きらいで、気が重かった。
粉薬はジャムに混ぜ、錠剤は砕いてこれまたジャムに混ぜ、とにかくジャムの味にならないと、口のなかに入れられないほどの苦手意識。今日もそうして乗り切るしかないか、ため息をつき、鼻をずりずりすすりながら、私は布団に寝転んで昼が来るのを待った。
「もくれんちゃあああん、ご飯やに!」
台所からおばあちゃんが呼んでいる。ああ、薬の時間だ・・・・・・。
食卓には、ジャコと卵をまぜたあたたかいオジヤと、すこし黄ばんだリンゴがあった。私はそれらを黙って平らげると、薬の紙袋を見て、またため息をついた。
「もくれんちゃん、食べたらお薬飲まなあかんにい!」
裏庭で花に水をやっているおばあちゃんが、声を飛ばす。わかっとるわ! 少々いらつきながら、母親に言われた薬を取り出し、コップに水を準備した。
さあ、ほんなら、ジャムを・・・・・・。
冷蔵庫をあけ、扉の内側のポケットをのぞく。が、あれ? いつもの定位置、卵ストッカーの隣に赤い紙カップのイチゴジャムが収納されているはずなのだが、見当たらない。
あれ? あれ? 棚の奥をかきわけ、野菜室のなかを調べ、ためしに冷凍庫をあけてみても、ジャムはなかった。品切れである。うそやー、こんな時にかぎってえ?
私は泣きそうになりながら本日ジャム在らずの現実を受け入れ、とぼとぼと薬の前にもどった。どないしょう、こんなもん、ジャムなかったら、飲まれへんやん・・・・・・。いちおう、プチッとカプセル剤を取り出し、粉薬の包みもやぶってはみるものの、口のなかへ入れる勇気はない。
「もくれんちゃん、薬は飲みましたかいな」
その時、おばあちゃんが水やりを終え、ドタドタと家にあがって台所へ向かってくる足音が聞こえた。私は反射的に目の前の薬を左手でつかみ、右手でコップの水をごくごくと飲んだ。
「うん、飲んだで」
そうか、ほな寝んさい、そう言ってまた慌ただしく家のなかの掃除にとりかかるおばあちゃんを尻目に、私は左手をぎゅっと握り締めたまま自分の部屋にもどった。
どうしよおおおおお!
ぐしゃぐしゃになった粉薬の包みと、ベタつきはじめたカプセル剤。ただおろおろと眺めながら、2時間ほどたっただろうか。私はあまりにも悩みすぎて
『封を開けてからもう2時間もたってるから、賞味期限が切れたと思う』
と自己都合的に解釈する方向にしか思考がまわらなくなり、意を決して布団から立ち上がった。向かう先は、便所である。思いつくことはたったひとつ、“流して捨てたったらええ。便所ならバレへんし”!
しかし運悪く、我が家はバリアフリーな部屋配置のおかげで、便所がおばあちゃんの部屋のすぐ隣に設置されていた。耳で、おばあちゃんがみのもんたに没頭しているのを確認すると、私は、なるべく何食わぬ顔をするようにして、そろそろと便所にむかい、戸を開けた。
いちおうパンツをおろして便座に座る。と、自動的におしっこが出たので済ませた。あとは、この左手の薬を、このなかに投入し、ざざっと流し去るのみである。ようし・・・・・・。
そして、便座から立ち上がり、いままさに証拠隠滅せんと犯行をはたらく瞬間だった。
「あんたッ、何しとりますのんッ!!!!」
何を感じとったのか、いきなり便所のドアを開けて乱入してきたのは、閻魔大王のような顔つきとなったおばあちゃんだった。このときのおばあちゃんは、ちょうどパンチパーマが浮きあがった感じの髪型をして太っていて、私には、高木ブーといかりや長介を足して2で割った雷様みたいに見えていた。
ぎえええええええっ!
半ケツ状態で、薬を便器に落とし入れてしまいながら、おしっこしたばっかりなのに、またチビりそうになった私。反射的に、甘えん坊の自己防衛本能がはたらいて、便器にかぶりつきゲロを吐くふりをしてみるも、時すでに遅し、さらなる怒りをかう原因となってしまった。
「あんたッ、なんちゅうことしますねん! 待っとりなさい!」
怒り狂ったおばあちゃんがドタドタと台所へ向かい、なにを持ってまた便所へと戻ってきたかというと・・・・・・。
「ギョエエエエエエーーーッ!!!!」
私が本気で叫んで、その場にへたり込んでしまったのも無理はない。おばあちゃんの右手には、なんと、刃渡り20センチばかりの出刃包丁が握りしめられていたのである。
「ほおっ、ほおちょおおおおおおっ!」
「そうですに! 電線も切れますに!」
マジでえっ!? アアッ、そういえば、おばあちゃんは日頃から、ハサミやカッターではなくなぜか包丁を使って物を切る癖がある。箱にかかったピンクのリボンも、ハッピーターンのビニール袋も、盆栽用の針金なんかも、すべてが包丁! ザ・デストロイ!
「その根性、わてが、叩きなおしたりますわ!」
啖呵を切ったおばあちゃんは、極妻を超えて、なまはげだった。
逃げたら殺されると思った私は、しゃくりあげながらただただおばあちゃんの要求をのみ、大人しく台所へ連行されて、薬を飲んだ。ジャムなんか必要なかった。恐怖すぎて、味がわからなかったのだ。
薬を飲み込んだのを確認すると、おばあちゃんはもう一度包丁をふりかざし、「次また薬捨ててみい! そんときは、ブッ殺しますからな!」といった。ウンウンウンウン、私はひたすらに首をたてにふり続け、もう絶対に薬を捨てませんと約束したのだった――。
それ以来、私は、ジャムなしでも薬をふつうに飲めるようになり、いまではすっかり、薬品好きである。ああ、またおばあちゃんに包丁で脅してもらえたら、もうちょっとおしとやかなオンナになれるのかしら?(んなわけない)
++2005/08/04(木) 本当の軟弱者は、私なのかもしれん
友達に
「この際キミは、敬虔なイスラム教徒か、厳格な儒教の教えを守る大陸系の男子を捜すぐらいの勢いでいるほうが、いいんじゃないか?」
といわれる。ええ。宗教と見まごうほどでもいいから、それくらい信念と影響力が強く、私にとってそれが指針にも抑圧にもなってしまうような、そんな男尊女卑系の人と出会いたい。亭主関白が一番。だって、少なくとも私の人生では、女を成長させるのは、いつだって男なんだもの。
だけどなー、出会うのはいつもその理想の逆なんだよなー・・・・・・じゃなくて! 私がモテないだけなんだ。
日刊ゲンダイからインタビューを受けてはや何週目。
木曜売りの金曜版に掲載とだけ聞いて、実際の掲載日が記者の方にもわからないというので、ここ最近ずっと、毎週木曜日になると担当の方と「Re:日刊ゲンダイ、きょうじゃなかったです」というタイトルのメールをやりとりして「今日は横山秀夫だったから、きっと来週ですよ!」と、根拠のよくわからない励ましあいをしているという・・・・・・。
私は近所のコンビニで思いっきり立ち読んで、載ってないと確認すると棚にもどしてるんだけど、やっぱり新聞ていうのは立ち読みしづらい媒体ナンバーワン。担当の方は毎週購入し載ってないと落胆しては、人妻の密約ほかエッチページを熟読しているらしい。ものすごく“秋の文庫本フェアー”とベレー帽が似合いそうな雰囲気の女性でいらっしゃるので、想像するとちょっとおもしろかったりする、今日このごろなのであった。
という感じで、今月のどこかできっと、被害者のように顔を丸く切り取られた泉美木蘭さん(28)が登場しますので、お見かけになられた方はぜひ。
あと、今月売りの「問題実話」でインタビュー受けてます。
→7月の日誌
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