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ヒットラーハガキはもういらない その2
持ち帰ったハガキをノートの横に置き、私は文字を解読しながら書き起こしていった。まったく読めない部分もあったが、とりあえず文章らしきものが浮かび上がる。
『敬愛なる もくれん様 あなたは今どこでアイスコーヒーを売っているのですか。ぼくはあなたに会いたくて仕方がありません。毎日3回、あなたに頂いたアイスコーヒーを飲んで、元気になりました』
すぐに、あの足の不自由な男性だとわかった。
私は特別なサービスをしたわけではないが、彼にとっての日課、一日3回あの店でコーヒーを飲むということは、必然的にその応対をする私の顔を見るということにもなっていたのだろう。きちんとした会話を交わしたことはなかったが、そんな風に思ってもらえていたなんて、嬉しい。
しかし、それを差し引いても、このハガキが不気味であることにかわりはなかった。だいたい、どうして私の住んでいる場所がわかったんだろう……。私がバイト先の近所に住んでいたというなら話はわかる。ところが、バイト先のあった場所からこのマンションまでは直線距離で約5キロ。仕事の終わる時間まで待ち伏せし、後をつけてくるにしても、あの足の不自由な男性が私と同じ速度で尾行して来られるとは到底考えられない。さらに、自転車通勤だったのだ。
ありえないが、もし仮に、あの男性が偶然このあたりを歩いていて、さらに偶然私がこのマンションに入るのを目撃したとする。
しかし、ここは外部からはそれぞれの部屋の配置はおろか、エントランスの内装すらのぞきみることができない完全閉鎖式のオートロックマンションなのだ。女性の入居者をターゲットとして作られた建物のため、慎重なことに、集合ポストも差し入れ口以外はコンクリートで密封されている。よほどポストまえに張り付いて観察しなければ、入っていった人物が何号室のポストを開錠しているかさえわからないのである。
このような鉄壁のガード条件のなか、全30戸の中からきちんと私の部屋番号を選ぶのは、あの男性に限らずともほぼ不可能だろう。おそらく、なんらかの方法でこの家の住所を文字情報として知ったのだとしか思えない……。
寒気をおぼえた私は、しっかりと戸締りを確認し、チェーンをかけ、床についた。(つづく)
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