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ヒットラーハガキはもういらない その3
送り主がわかってからも投函は毎日続いた。あいかわらず姿は見えない。
ただ、投函の時間帯については変化があらわれはじめた。ある日は午前中、ある日は夜。午前中に一通、正午にもう一通という日もある。
ハガキはすべて、読まずにエントランス内のくずかごへと放り込んでいたのだが、一日に二度も投函されはじめると、隠れていた不安が胸のなかで暴れるようになった。
物陰にひそんだ男は、双眼鏡を手にこのマンションのポストを監視している。私が午前中のハガキを受け取ったのを確認すると、即座に二通目を用意し、投げ込む。そして、ふたたび私がハガキを見つけ不安にさいなまれながらくずかごへ放り込むのを、やきそばパン片手にニヤニヤと見物しているのではないか。
あの男め! 返事がもらえないことに対する執着か! 精神的ないやがらせに走るなんて、ひどいじゃないか。これは立派な迷惑行為だ。軽犯罪法違反だ。
私は不安をぐっと飲み込み、男性と対決することを想定した。こういう場合、まずは法的手段の第一歩として「証拠物件」の収集からはじめなければならない。
そこで、その日の午前中に投げ込まれたハガキを部屋へ持ち帰ると、ふたたびノートに書き起こすことにした。
「敬愛なる、もくれん様、と。えーっと、わたしが、もっともあいする、ぐんじんの、ヒツトラーそうとうについて、ごぞんじですか、と……ぁアッ!? ヒットラーがなんだって?」
よくよく読んでみると、そのハガキにはヒットラー総統のすばらしい一途な愛、ヒットラー総統の多大なる帝国建設、ヒットラー総統のたぐいまれなる芸術的才能、自分だけの知るヒットラー総統情報、ぼくってばヒットラー総統を愛してやまないの、ハイル! ヒットラー! マンセー! など、危険分子ぷんぷんな想いの数々がしたためられていた。
――なんじゃそりゃ……そんなに好きなら総統にお手紙してよ……にしても、やばいなあ、これ。
さらに翌日の朝に投げ込まれたハガキには、こんなことが書かれていた。
『敬愛なる もくれん様 昨晩は取り乱したものを送りました、ごめんなさい。ところで、マッカーサー元帥はご存知でしょうか。元帥は素晴らしい軍人であります。私は元帥のようになりたい。ここだけの情報ですが、元帥は油絵が趣味だったといいます』
――しらないよ! (つづく)
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